太平洋決戦~全軍突撃せよ~デザインコンセプト
■Si-phonGameClubコラム記事(ゲーム観などの綴り)
「戦略級空母戦ゲームの可能性 について」
「ドイツゲームとウォーゲーム について」
■太平洋決戦デザイナーズノート(解説書冒頭より転載)
「デザイナーズノート」
■太平洋決戦制作ノート(制作期間中の雑記)
「制作ノート」(3/15追記)
■太平洋決戦ディベロッパーズノート(ゲームの視点・思考など)
「デベロッパーズノートノート」(3/21追記)
制作ノート
こちらは「太平洋決戦~全軍突撃せよ~」の開発雑記となります。ページの内容は発売日まで、更新・修正されていきます。
Si-phonBoardGameNo.2『太平洋決戦~全軍突撃せよ~』は、戦略級空母戦ゲームとして登場する。今回、元となったゲームは、一年ほど前から制作していたソリティア空母戦ゲームであった。空母のエレベータアクションをモチーフにしたもので、作戦別に設定されたゲームブックに沿ってプレイするものだった。
だがボリューム感が出ない上に、史実を知っていると有利に運ぶという、ウォーゲームでよくある失敗作の流れであり、製品とするには無理があった。
その時の問題点より、太平洋決戦のシステムは作られていく事となる。
■戦略級空母戦ゲームとして
そうした経緯があり、Si-phonBoardGameとしては『信玄上洛~武田の御旗を打ち立てよ~』が先に登場する事となる。そしてこちらの制作がひと段落ついた後、空母戦ゲームの手直し作業へ進む。
システムしては、大幅な修正を強いられた。修正というよりは、ゼロからのスタートとなる。都合よく正月休みに入り、そうした作業をする時間が取れた。
頭を冷やすと詰まっていた原因は、映画等で表現されていた「ミッドウェー」の再現という、言わば「空母戦の再現」の見せ方に縛られている事に気付く。
索敵や換装、カタパルトの故障など、よくよく考えると、日米が総力戦を行った大戦の中では、ちっぽけなコンテンツのひとつである。もちろんこれらを無視しても、空母戦は再現できない。だが固執しても、極めて応用の利かないシステムになるだろう。
そこで、もう少し視野を広げて考えてみようとなり、やり尽くされた感の作戦級空母戦で行くよりは、戦略級空母戦で挑戦してみようという事にした。
■フィールド作り
日米が国力をあげて生み出した最新兵器と、その運用ドクトリンをぶつけるフィールドをどうするか。これらがぶつかり合ったのは、実は1942年だけである。
1941年は日本軍の一方的な打撃力
1942年は激しく衝突する消耗戦
1943年以降は消耗を補う生産力
戦略級ゲームとして、太平洋戦争をまともにシミュレートするなら、こうした表現となる。だがこれがゲームとして面白いのか。この疑問から、日本軍が勝利出来たり、アメリカ大陸を蹂躙したり、スエズ運河でDAKと合流したりするゲームは多い。
これは、まともにシミュレートするとしたら、ミッドウェーで勝利しても日本の勝利は厳しいし、また、なる様にしかならないゲームのつまらなさは、売り物にならない弱さであると、売り手も作り手も知っているからである。
しかしソリティアである以上、日本軍が勝てないとゲームにならないし、勝てても現実性を失う。そうした中で太平洋戦争を表現し、ユーザーが納得するプレイ感と終わり方を提供しなければならない。
よくよく考えて、1942年の戦い方をモチーフに、ソロモンからミッドウェーにかけての領域で、日米の太平洋戦争を表現する事とした。これなら、システムもレートも変更する事なく運用でき、空母戦の雰囲気と終わり方を提供できれば、戦略級ゲームとして成り立つだろうと思ったからである。
■太平洋戦争を表現するシステム
太平洋戦争を空母戦を主体とするシステムという事で、空母戦を中心としながらも、艦隊戦も再現できるシステムづくりとなる。特にソロモンがフィールドであれば、これがないと話にならない。空母決戦では、この部分の打ち合わせを怠った為に、ガダルカナルを巡る戦いが上手く再現できなかった。その反省もあった。
詳しくはディベロッパーズノートに書くとして、システムの大まかな決定事項は次の通りである。
まず「空母」と「航空隊」と「戦艦」の力関係は、①「空母」は「航空隊」に弱く、②「航空隊」は「戦艦」に弱く、③「戦艦」は「空母」に弱い、である。語弊がないように解説すると、①の意味は、無傷の空母を攻撃出来るのは航空隊のみとした。②の意味は、航空隊が戦艦を攻撃しても、防御力の高さからなかなか沈まないし、対空砲撃の消耗が大きい事から、戦艦への攻撃は得策ではないとした。一度の攻撃で半数ほどが失われるので、できる事なら空母を叩かねば、というシステムとしている意味である。③の意味は、そもそも空母を含む艦隊を戦闘艦のみの艦隊は補足できない。これし①とも絡むが、空母を沈めるには航空隊しかないのである。ここで大破とした場合のみ、補足できるとしている。
この流れで、ターンの終わりに追撃という潜水艦フェイズを作った。ここで大破、中破などの被害を与えておくと、追加のダメージを与える可能性を作り、ターン中の攻撃を活発化させる事とした。史実でもそうだが、航空機でダメージを与え、潜水艦や駆逐艦の魚雷で処分という結末も多い。ここではその事を表現している。これは敵の攻撃のみならず、大破の艦は味方の処分を受ける事も意味するフェイズである。
ユニットの規模やレート、空戦、航空隊攻撃、艦隊砲撃などについては、ディベロッパーズノートで語る。
■シナリオ構成の反省点から
今般、エポックを5つ用意し、その組み合わせでシナリオを3つ用意した。その3つ全てにおいてキャンペーン制を取っていた。
エポックⅠとⅡ、エポックⅢとⅣ、エポックⅠ~Ⅴという組み合わせである。エポックⅢとⅣをシナリオと2とシナリオ3で使用する構成を取った。これが原因で、シナリオデータの制作というよりは、その表現方法にもの凄く時間を費やしてしまった。偏に編集力の力不足であり、その事を痛感させられた。
特に、珊瑚海とミッドウェーという組み合わせと違い、第二次ソロモンと南太平洋という組み合わせは、登場データの構成が似ており、それをキャンペーンで続けていくと、表現のパターンが非常に煩雑になり、編集と同時進行のデータ修正は、DTP担当者をも悩ませる事態となってしまう。
そこで、頭を切り替えて、エポック単体でプレイできるバージョンのデータを追加する事とした。この方が表現方法もすっきりする。そしてシナリオ3も、改めて再編集する事とした。
これに加えて、エポック0(ゼロ)として「スラバヤの号砲」を追加した。今回のマップには、エリアが入っていないものの、艦隊戦の発生と軽空母(龍譲)が登場するので、チュートリアルとしても一番良い海戦であると判断したからである。
予定になかったスケジュールが追加される事となったが、早くこのパターンに変更すると、スケジュールをもっと圧縮できただろう。これは、大きな反省点である。
■会心のCRTついて
詳細については、ディベロッパーズノートに書くとするが、今回のゲームで一番会心の出来だと感じているのが、地味な箇所であるが実はCRT。
特に対艦攻撃のCRTは、ひとつのCRTで艦隊戦の砲撃・雷撃(ゲームでの区別は無し)と、航空隊の爆撃・雷撃(こちらは区別有り)をひとつのCRTで表している。これを戦艦から駆逐艦までに対応させてたものとした。
戦力比とするか、どうするか悩んだものの、ユニット別に処理する事もあり、攻撃値から防御値を差し引いた数値と、ダイスへの修正で賄うシステムである。
このシステムが功を奏した事を実感したのが、先に出した追加エポック。後つけで作ったシナリオも機能していた事から、この方法にしておいて良かったと改めて実感した。
■イメージの共有
Si-phonBoardGameの作りは、マップとユニット作りから始まる。これはデジタルの時の反省点からのフィードバックである。
最初に何を表示しなければならないか、という条件からマップを作っていくと、全体像がわからないまま、デザイナーはマップを書き込んでしまう。すると当然、その上に乗せる情報は、もっと強い色などの表現となり、その上に乗せるものは更に強い表現となり、目が痛くなってくる。
マップはあくまで情報を載せる下地であって、これが目立っては情報が把握し難くなる。それでマップとユニットから作っていく事にしている。マップとユニットができる事で、サイトも作りやすくなり、ジャケットのイメージ画像も伝えやすくなる。制作チーム内でイメージの共有化が早くなるのだ。
逆にゲームデザインをほぼ終えて、マップやユニットのコンポーネント制作に移ると、1.5倍から2倍の制作期間が生じてしまう。またビジュアル面でイメージが伝えられない為、イメージの共有にも時間がかかる。
これらの理由から、マップとユニットを最初に作り、そこからルールを固めていく事にしている。
■合成樹脂マップ
マップに使う紙は、今回、耐水性の強い合成樹脂紙を用いた。合成樹脂という事で、性格に言うと紙ではないとの事だが、貰っていたサンプルが手では破れなかった事もあり、耐久性も良いと言う話を信じての採用である。
破れないとは言っても、強く引っ張ると伸びるので、お試しになる事はおやめ下さい。ちなみに、カッターを入れると切れましたので、こちらもご注意を。
最初はマップとしてはちょっと薄いかな、という印象であったが、インクののりも良く、良い感じに仕上がっていた。チャートなども、厚手のものがあれば次回からこちらにしてみたい。
今回、エリアの割り方についての修正は殆どなく、ユニット置き場として、日米両軍の場所があったのだが、途中で米軍の置き場を廃止して、アマダくじ形式のランダムチャートを配置した。サイコロを振ればよいのではという意見もあり、意味があるのかないのか微妙だが、こうした遊び心を取り入れていく事は次にも繋がると思い、今回採用した。
■15mmカウンター
使用するカウンターは、信玄上洛に続き、今回も15mmのものを採用した。A4のカウンターシート1枚で198ユニットが取れるものである。
艦隊マーカーなど、マップへ直接配置するものが少なかった事から、20mmカウンターにする案もあったが、マップをB3サイズにする事でバランスを取り、カウンターは15mmに決定した。
これは別途、プロジェクト化している「ウォーゲーム制作支援プログラム」で用いるカウンターと共有させる為でもあったが、結果として共有させる事で支援プログラムのカウンターコストを下げる事もできた為、こちらでも大きい役目を果たす事となった。
表示内容にしては、軽巡以下の艦船は戦隊規模、航空隊は中隊規模としているので、全体をシルエット表示とした。
■イメージビジュアル
製品のカバーなどて使うイメージビジュアルは、信玄上洛に引き続き、今回も板倉宗春さんにお願いする事となる。
九七式艦攻がホーネットに魚雷を打ち込むその瞬間、という事でお願いする事となった。やはり雷撃というと、南太平洋海戦の村田重治機の雷撃が有名なので、そのシチュエーションに近い形を考えて頂いた。
ロゴにも使っているが、九七式艦攻がフォルムとして一番整っている気がするので、今回の採用となった。緑色の単発飛行機に日の丸がついていると、勝手に零戦だと思ってくれる方も多いので、それはそれでよしとした。
最初の空母決戦(ver1.0~1.5)ではヨークタウンを使ったが、日本の空母に見えるとの意見もあり、今回は、明らかに雷撃を加えるその瞬間とした。
■艦隊チャートとユニット規模
今回、艦隊ごとに陣形を組み、艦載機の管理も同じチャートで管理するシステムを取った。
大きな作戦になると場所をとるのだが、この方が雰囲気が出るので決定した。マップへ書き込む方法も検討したが、今度はマップが大きくなり過ぎるので断念する事となる。
ユニットの規模は、戦闘処理を行う単位を基本とした。航空隊は中隊、艦船は戦隊規模を基本としたのは、この理由である。大型艦に関しては、空母や戦艦は一隻単位、重巡は二隻で1ユニットとした。重巡の調整が最期まで残ったが、艦隊戦と空母の護衛としての役割を考えて、この割り方となった。
軽巡も最初は分けていたのだが、レートを振っていく段階で、戦隊ごとに割ったユニットの値が似通ってきたので、水雷戦隊として駆逐艦とまとめる事とした。色んな種類のユニットがあり過ぎると、非常に分かり難いとの話も出て、まとめる事としたが、説明時に日米の違いがあると面倒なので、日本は戦隊、米軍は艦隊という名称にしている。規模が違う訳ではなく、あくまで説明上の都合なので、この点はご了解頂きたい。
■太平洋戦争の表現
当初は、空母と空母の戦いとして再現するゲームを描いていた。空母というより機動部隊同士の戦いである。
だがキャンペーンシナリオを調整していく間、次の問題がでる。
日本機動部隊や空母決戦の用に、バンバン艦船を沈めていくと、シナリオの終盤になると登場する艦船が無くなってしまう。また、消耗した航空機の補充ロジックをどう取るか。という問題である。
キャンペーンも2つくらいなら、こうした問題は無くなるが、今回は、最期のエポックで総括しようという形式を取っているのだが、そこまで行き着かない。そこで沈没の仕方を、データを基に、ゲームとしては押さえ気味とした。
また兵装の換装機能を入れない事にしたので、誘爆のルールを外した事から、特にミッドウェーで日本軍の空母が沈み難くなった。
ここでまた調整となるのだが、よくよく考えると、ミッドウェーで空母が残ったとしてどうなったのか。基本的に搭乗員の多くは救助され、珊瑚海海戦で消耗していた五航戦へ補充される。そして、第二次ソロモン海戦や南太平洋海戦で活躍する。その搭乗員が消耗した事が、その後の展開を制限する事となった。
つまり、ミッドウェーで沈んだ四空母が残ったとして、その後の日本軍の展開に対して、どの様に影響したかは微妙だとなる。航空戦力が消耗すると、空母もただの船となるのは、レイテやその後の空母の使われ方が答えを出している。
よって、ミッドウェーで日本の空母が残っても良いとした。日本軍は航空戦力の消耗、米軍側は空母の消耗という視点で、このゲームをまとめる事とした。日本軍は航空戦力を消耗させたくないが、米軍の空母を攻撃すると消耗する。このバランスで調整を続ける事となる。
(ディベロッパーズノートへ続く)