白浜レポート
瀬田の唐橋へ旗を立てに行って
ライター:白浜わたる
Si-phonGameClub別冊 戦ノ国発売記念号 より転載
■序章-甲斐の虎動く-
「デイリースポーツ」の広告でおなじみ、私こと甲斐虎二郎が「戦ノ国」の特徴と、
ポイントになるルールや概念を説明していく。プレイする大名は私にそっくりと評判の武田信玄公。
目指すは「瀬田の橋に旗をかける」こと、つまりは上洛だ。山梨県在住の熱狂的タイガースファン、
人呼んで「甲斐の虎キチ」の奮闘ぶり、ご照覧あれ。
甲斐の武田で開始して山城国を目指すなら、史実のとおり信濃、美濃、近江と東山道を西進するのが最短距離だ。
ただしゲームでは信濃国と近江国が南北に分割されていて、「信濃北」は美濃に接しておらず
「近江北」から山城には入れない。まずは是が非でも「信濃南」を確保する必要がある。
ゲームスタート時のマップで見る、甲斐から山城までのルート。
「信濃南」は今川の領国にも隣接しているので、真っ先に占領する必要アリ
■今川の機先を制して信濃南へ
ほぼ史実どおりに進めるならば、周辺の大名との外交も史実に近いものとなる。
同盟を結ぶことで、北条には関東平定に専念してもらう。今川には東海道ルートを譲る代わりに東山道ルートを
譲ってもらおう。そしてできれば上杉との不毛な消耗戦も回避したい。
「外交」画面で見る限り北条、今川との関係は良好。同盟交渉が可能になる三か月ごとのタイミングで、
何度か試みれば成功する可能性は高い。 それはそうとして、信濃南は真っ先に攻略しておく必要がある。
例えば今川が先に進出してしまったら、今川を敵に回して活路を開く以外に選択肢がなくなるからだ。
農繁期に他国を攻めるには多額の軍資金が必要になる。幸いなことに信濃南は手薄なので、武将4人で攻め込んでみた
■農繁期の戦争はお金がかかる
ゲームの開始タイミングは四月。四月から九月にかけての農繁期に他国へ侵攻する場合、
農閑期に比べて数倍の費用がかかるうえに、軍勢の働きも悪くなる。
十月になれば年貢収入が石高数値+商業と鉱山数値の四分の一程度は入る見通しであるものの、兵の維持費ともなる俸禄は、
月割りで差し引かれる。武田は人材が豊富なぶん、年間の俸禄支出が最初から十万を超えている。
戦のたびにかかる費用とは別に毎月一万くらいの余裕がないと、ペナルティとして家臣の忠誠心が落ちたりするのだ。
手持ちの財を節約したいのは山々なのだが、涙を呑んで農繁期に侵攻し、信濃南を高値買い。 今川は三回めくらいの持ち掛けでようやく同盟に応じてくれた。
3度めくらいの外交交渉で今川との同盟に成功、側面および背後の安全を確保する。
よく見ると今川配下の松平家と織田家、斎藤家がすでに紛争を繰り広げていたりするのだが
■風の章-颯爽と南信濃へ侵攻-
京への道を開くべく、ゲーム開始早々信濃南へ。 そして農閑期を待ちつつ今川との同盟で背後が固まり次第、美濃から近江南へと進撃していく。 そこで生じる戦闘について説明しよう。
野戦であれ攻城戦であれ、武威の高い武将の部隊のほうが「士気」値が高くなり、 相手に与えるダメージも大きくなる。「知力」には籠城した場合に戦果が上がりやすいなどの効果があり、 「魅力」で味方につく地侍が増えるなどそれぞれにメリットがあるのだが、軍勢を揃えて戦うときは、 なんといっても武威である。
野戦が始まる前に、仲の良い大名にあらかじめ援軍を頼める。ただし、援軍の到着タイミングは状況次第だ
■大人数の部隊のほうが有利
また「戦ノ国」の戦闘では、敵味方の部隊同士で戦力比の効果が生じる。少人数の部隊をいっぱい出すより、
大人数の部隊をいくつか出したほうが有利な場面が多いということだ。武将が何人までの兵士を有効に活用できるかも、
武威で決まる。このゲームでは強い武将の俸禄を上げて、計画的に大兵力を作り出すのが大切だ。
野戦の開始時点では互いに敵の武将の「調略」を試みる。 「忠誠心」欄のアイコンを見て裏切ってくれそうな相手を選ぶのがセオリーだが、 敵の武将に魅力的な人材が見当たらなければ、無理にやる必要はない。微妙な武将を抱え込むと俸禄がかさむうえに、 兵力の集中配備が難しくなるからだ。
野戦には、敵に積極的に損害を与えたいなら攻撃体制、こちらの損害を抑えたいなら防御体制で臨むとよい
野戦の開始前に敵武将を調略できる。ただし、実際に裏切ってくれるか、いつ裏切るかは分からない。
また、とくに調略していない武将が裏切ることもある
野戦には、敵に積極的に損害を与えたいなら攻撃体制、こちらの損害を抑えたいなら防御体制で臨むとよい
■損害を抑え士気で勝負
野戦では「防御」体制をうまく使うことも重要だ。単に兵力の損耗を抑えるだけでなく、例えば双方が防御体制に入ると、
士気の低下以外にダメージが生じなくなる。敵将の武威が低く、士気ダメージだけで敗走に追い込めそうなら、
こちらも防御でよいのだ。敵の全部隊が退却したら攻城戦に移行する。野戦に費やした日数を含めて、
敵に二十日間粘られてしまうと城は陥ちない。こちらの士気が落ち気味なら、敗走する前にあえて撤退し、
逆に敵の士気が落ち込むと、降伏を申し入れてくることもある。敵が当主を含む場合、 降伏を受け入れると敵は自動的に臣従大名となる。とにかく敵を降せばそれでよいのか、 その国の収入を手にしないと意味がないのか、状況に応じて判断したいところだ。
攻城戦も野戦と同様、兵力損失と士気の低下で勝負が決まる。
城方には兵糧の黄色いゲージもあって、これが尽きると士気の低下が速くなる
■林の章-慌てず次の戦いの準備を-
年貢収入と農閑期を待って美濃に進出する頃には、手持ちの財に余裕が出る一方で、 兵もそれなりに失っていることだろう。「戦ノ国」における武将指揮下の兵力は、俸禄の額で決まる人数上限まで 自動で増えていくが、俸禄さえふんだんに与えておけばいつでも兵が足りているわけではない。兵として徴募できる 余剰人口とその増加ペースは、国ごとに管理されていて限界があるからだ。
前述のとおり、強い武将に多くの俸禄を与え、まとまった兵力を持たせるのが戦に勝つコツ
ほかの戦国ゲームと異なり、行け行けドンドンで損害を出しまくったのでは補充が追いつかない。 そんなシビアなバランスが「戦ノ国」の特徴である。徴募可能人口を手っ取り早く確保するためには、 他大名があまり兵を集めなかった国を手に入れるのがいちばん効果的だが、互いに激しい戦いを繰り広げていると、 そんな国はそうそう都合よく残りやしないはずだ。
武将が率いる兵士数の末尾が半端な数値になっているのは、兵力が回復しきっていない証拠。
そもそも先ほどの加増で、飯富源四郎は1200人まで兵士を持てるはずだ
国ごとの徴募可能人口の増加ペースには、農業、商業、治安度の数値が影響する。
戦禍で下がった国ごとの治安度を「統治」によって回復することは、収入面でも兵力回復面でも重要な作業なのだ。
そもそも「戦ノ国」では、手に入れた領国に現時点でどの程度支配を及ぼせているかを表現するために、
治安度というパーセンテージ数値が導入されている。治安度の数値は実効石高の算出時にも参照されているため、
治安度の数値を二倍まで向上させれば、実効石高も二倍になる。領国を運営していくうえで非常に重要な数値なのだ。
治安度の下がった状態とは「国内に反抗的な領主がおおぜいいる」状態のことだから、
治安度を回復させる「統治」は軍事コマンドに分類されている。
投入する兵力が少ないと効果が小さいうえに損害が出やすいため、新たに切り取った領国では、
そこに投入した兵力をそのまま使って実行してしまうのが手っ取り早い。
もちろん急進撃のときにはそうもいかないし、治安度はその後もいろいろな理由で下がる。
各領国をメンテナンスして回れる兵力的な余裕を持つことが、理想といえば理想である。
信濃南に攻め込んだ軍勢で、直後にそのまま統治を実行。
兵力回復面でも収入面でも、治安度を上げておくことは重要だ
月ごと、季節ごとに起きるランダムイベントも、徴募可能人口や治安度に影響を与える。
治安度が低いと反乱が頻発し、さらに治安度が下がる
■火の章-怒涛の進撃戦-
美濃から近江南へと進んでいくためには、新たに隣接する織田、三木、浅井といった大名と手を結んで、 側面の安全を確保する必要がある。とはいえ、相手がすんなり同盟に応じてくれるとは限らないため、 ときに戦で相手を追い払い、領国を奪う必要も出てくるだろう。
美濃に隣接した三木家、浅井家とは同盟できたものの、尾張を手に入れた斎藤家とは手を結べないまま敵対関係に。
やむなく尾張を奪って伊勢に侵攻、降伏させて臣従してもらった
■直轄領の内政には限界が
そんなこんなで領国が増えていくと、内政の効率が落ちてくる。
序盤は農業・商業・鉱山のどれも矢印が上向きで順調に成長していたと思うが、横ばいや下向きの項目が出てくる。
各項目の数値を増減させてみて、なるべく成長が続くように調整したい。
ちなみに「戦ノ国」では、農業に対して商業・鉱山が発達しているほど専業の武士が増え、軍勢の発揮戦力が上がって、
とくに農繁期における発揮戦力ペナルティが軽減される仕組みになっている。内政の方針を決めるに当たって、
頭の片隅に置いておくとよいかもしれない。
だんだん利かなくなってきた内政。農業・商業・鉱山に均等に割り振るとどれも横ばいだが、
鉱山に集中するとまだ伸ばせるらしい
■譜代大名は出世頭?子会社?
さらに領国が増えていよいよ内政が行き届かなくなったら、多額の俸禄を与えている家臣に国単位で知行を与え、
譜代大名にしていくことで直轄領を減らすのが有効な解決手段だ。比較的石高の小さな国から与えていって、
養える兵数の変化を確認しつつ進めたいところだが、譜代大名は独自の判断で武将を雇うことがあるので、
与えた知行高がその武将の兵数にそのまま直結しないのがけっこう悩ましい。
譜代大名の知行で養われる陪臣とその配下の兵力も、確かに武将として運用できるのだが、
優秀な人材を雇ってくれる保証はない。いつの世も、人を使いこなすのは難しいのである。
そうしたわけで、例えば武威が飛びぬけて優秀な武将はあえて譜代大名に列することなく、 多額の俸禄で当主直下に残すという選択もアリだろう。「戦ノ国」では武将を意図的に解雇できないし、 それはモチーフに対して正しい描き方でもある。そこで微妙なスペックの武将を、設立した譜代大名家に陪臣として属させ、 直轄領に対する俸禄の負担を減らすのも重要なテクニックとなる。この考え方を徹底させた場合、 譜代大名は敵に寝返らない律義者でありさえすればよいことになるだろう。
山本勘助に信濃南を与え、陪臣を二人つけて譜代大名に。山本家という大名家が誕生した
■山の章-暴れん坊から強き者へ-
近江南から六角家を追い出し、領国としたところで隣接国からの脅威も排除していく。 といっても、近江北の浅井とは講和済み、南に隣接する伊勢の斎藤はすでに臣従大名としたので、 残るは伊賀へと下がった六角に、引き続き対処していくだけだ。
近江南の余剰人口を手に入れることで、兵数がフルに回復した主力軍団を投入すると、六角家は野戦を諦めて篭城し、 やがて降伏した。上洛を前に二つ目の臣従大名誕生である。我が軍勢が満を持して山城国に入る頃、 臣従大名である斎藤家は大和国に進出した。今後も援軍を派遣してもらったりすることを考えると、 臣従大名が順調に勢力を伸ばすのは好都合なことだ。だが、ゲーム内に流れるメッセージを見る限り、 臣従関係の破棄は少なくとも同盟破棄より頻繁に起きている様子。斎藤家の成長を喜べるのも、 あくまで今後の関係が良好である場合に限られる。
伊賀へと落ち延びた六角家を再度降し、臣従大名に収まってもらう。これで近江南への脅威は除かれた
■自家の実力で同盟を維持
武田家を頼って室町将軍が下向してきた。甲斐の守護が重要なアイデンティティである我が家は二つ返事で承諾
臣従大名には知行地を給付できるのでまだよいとして、「戦ノ国」には同盟相手のご機嫌をとる手段など
用意されていない。同盟関係を維持したいなら、自家がひたすら成長を続けること、
そして朝廷や室町幕府から官位や役職をもらって、お家に箔を付けることが必要だ。
京を目指して迅速な進撃を続ける武田家には今回、室町将軍が身を寄せてきた。
これを快諾したうえで播磨守護に就き、さらに朝廷から細川管領家をしのぐ左京大夫をもらうべく奏請してもらったのだが、
こちらはすげなく断られた。成り上がり者にはまだまだ厳しい世の中のようだ。
播磨守護をもらったのは、今後摂津・播磨を目指すつもりだからだ。タイガースファンとして
甲子園球場と六甲山は必須アイテムである。二条城を強化して虎の飾りで埋め尽くした(妄想)後は、ぜひ播磨を。
そう。「ハリマオとはマレー語で虎のことである」という強引なオチで、この原稿を締めたいと思うのだ。
京の町に轡を並べる、武田家の主力軍団 | 管領家と肩を並べる京職はもらえず |
いろいろ考えたすえ、播磨守護に |
■最終章-小粒でビリリと辛い大人向けゲーム-
十時間で終わる戦国ストラテジーと聞くと、多くの人はすごくシンプルなゲームを想像することだろう。
だが「戦ノ国」はそのコンパクトなプログラムの中に、実に多くのギミックと、戦国時代的な文脈を盛り込んでいる。
コマンドではなく、パラメータの密接な連関で表現しているのが特徴だ。結果としてプレイの手間を増やすことなく、
ストラテジーゲーム本来の考える楽しみをふんだんに備えているのだ。そのことは甲斐虎二郎さんの解説を通して
分かってもらえたと思うが、ここで再度要点を整理しておきたい。
■シビアな財政と俸禄
甲州の金山を支配下に置く武田家でさえ、のべつまくなしに戦えるわけではない。
農繁期の戦にはとてつもないコストがかかるうえに、俸禄の支払いが大名家の財政に重くのしかかる。
序盤の財政運営はかなり厳しい。戦力比が重要な戦闘ルールと併せ考えたとき、俸禄は有能な武将に傾斜配分するのが
おそらく正解だ。考えてみれば「戦ノ国」に登場する武将は本来軍団長クラスの人材である。
複数の武将を組み合わせることで軍団を編成する代わりに、有能な軍団長クラスに多くの俸禄を与えることが、
システムの趣旨に沿った軍事編成なのだ。
■戦を避けるべき戦国ゲーム
財源の問題をクリアすると、なんでもやり放題になってしまうPCゲームは世の中に多々あるのだが、
「戦ノ国」がそうならないのは戦で失われる人的資源をきちんと背後でカウントし、管理しているためだ。
勝利を重ねていっても、失った分の人的資源が埋め合わせられるとは限らない。そうなると、いかに損害を抑えて勝つか、
出血の多い戦いを回避できるかがクローズアップされる。そこに外交の価値が生まれるのだが、
ここでも安易な関係改善策をあえて用意しないのが「戦ノ国」流である。勝つことで外交的な影響力を増したいが、
そもそも勝つためには良好な外交関係が重要だ。そうした循環構造を前提にして、どこに活路を見出すことで
外向きの拡大スパイラルを築けるか? その糸口や方法を見つけることを楽しんでもらいたいからこそ、
いかにもありそうな外交コマンドを、あえて盛り込んでいないのだろう。
■治安度が要の役割を果たす
財政と人的資源の両方を扼し、かつプレイヤーの努力で比較的動かしやすいのが国の治安度だ。
治安度は実効石高に直結し、徴募可能な兵数にも影響を与える。 その国を実際にどれだけ把握し、
どれだけの人が現当主を支持しているかという、まことに戦国時代らしい課題が、
ゲームの勝敗を分ける要素に深く噛んでいることは、歴史ストラテジーとして重要なポイントといえる。
近年の歴史学界で戦国大名の家を語るとき、それが国衆の連合体であり、個々の国衆がどう考え、
領内の村々がどう動くかが取り沙汰されることを考えるにつけ、このシステムは興味深く思える。
戦国大名を殖産興業の主体とばかり考えるのはあまり適切とはいえないし、国衆達との間の階級闘争を強調するのも、
やはり一面的だ。「統治」コマンドの中身ってケース・バイ・ケースなんだろうなあ…
というイマジネーションの問題はさておき、「戦ノ国」がなかなか面白い勘所を備えた作品なのは確かである。
(白浜わたる)