制作ノート
*以下は制作過程(2011年10~11月)の雑記です。
(ディベロップメント雑記)
サイフォンボードゲームの第一弾として登場する『信玄上洛』であるが、調整作業は日々続いている。ここではその過程を綴っていきたい。
ソリティアゲーム「信玄上洛」の基本指針
「信玄上洛~武田の御旗を打ち立てよ~」では、通常だったらゲーム性を高めたり、重厚感を増したり、壮大さを煽るような仕様や機能を、極力除外した。これはコレクションとしてでなく、きちんとユニットを切って実際にプレイしてもらう事を前提としているからだ。この為、ルールは極めてオーソドックスなもので固め、ルールブックを確認する時間があるならば、作戦を練る事に集中できるように注力しており、リタイヤ組がプレイ環境へ復帰できる商品にすると位置づけている。
今も現役のヘビーなゲーマーからすると、もっとこの機能があったがいい、そう感じる箇所も多々あるかと思われるが、ルールブックを読むところで、そのボリューム感により、プレイの挫折を与えたくない気持ちからの出発なので、ここはご了解いただきたい。
逆に、ルールのスリム化を目指す為そぎ落とした箇所も多く、これはオリジナルシナリオを制作する上において、追加のルールや機能も盛り込みやすいとも言えるだろう。
カードドリブンシステムの不採用
カードドリブンシステムは今回採用しなかった。これは、いろんなイベントを用いてゲーム性を高める事より、今回は「待った」をかけつつ、作戦の可能性を模索する楽しみへ方向性を振ったからだ。「待った」優先は、ソリティアゲームとしてソロプレイできる点を逆手に取り、自分の空間・時間を大切にできる事を優先させた結果である。カードによるゲーム性は、これを一番遮断すると判断した。
信玄上洛でのマッブエリア
プレイヤー演じる武田信玄の勢力が主役という事で、当時の武田の勢力範囲を中心とし、関東から京までをマップエリアとしている。
エリアの名称へ国名を使ったり地名を使ったりしているが、国名が使われているからと言って、その国そのものを指している訳ではない。その国の中心地程度に思ってもらえると助かる。また複数の国の一部同士を合体さて、ひとつのエリアとしている箇所もある。
そのひとつのエリアは、おそよ20~30万石相当で考えているものの、例外はある。各エリアは戦力を有している為、そちらで調整したり、地域性の特徴としてルールにて調整をかけている箇所もある。
●北陸エリア
最後までエリア割に悩んだのがこの地域。エリア=国力=兵力と考えると、もう少し増やすべきであると感じていたからだ。
古来、朝廷は越の民へ脅威を感じていた。越の民がまとまって都へ襲撃してきたら、という心配からだ。越前の国府などは、その最前線基地という位置づけだったのであろう。この心配事は、源平争乱期の治承・寿永の乱にて、木曾義仲によって現実のものとなる。越後へ進出した義仲は、北陸道の武士団をまとめ、一気に入京を果たした。
後の上杉謙信も、織田との決戦で同じルートを辿る。上洛への定石ルートとしては正しい選択なのだ。関ヶ原の合戦時に、前田勢がこの事に気づいていたならば、この地の重要性はもっとフォーカスされていたかも知れない。秀吉はこの事に気付いて、前田利家を配置していた可能性もあるからだ。
話をもとに戻すと、越中・加賀を分割する方向も考えてテストしたが、越中・加賀・能登で3エリアでも、掌握できれば十分に強力という事で、このエリア割とした。
【11月8日修正】
加賀エリアが有している戦力ユニットを、本願寺ユニットから長槍ユニットへ変更。これへ本願寺が加担する事で強さを表現。
●関東/甲信/木曾口エリア
関東は主に北条氏が制圧しているエリアであるが、関東以西を排除している関係で、武蔵・上野は東西へ分けた。また逆に、伊豆・相模は合体して小田原とさせてもらった。
甲信地方は主役のホームグランドであるが、甲斐は1エリア、信濃は2エリアとしている。南北に分割した信濃と武蔵の国境の繋がりは、戦ノ国同様、北信濃と武蔵とした。
木曾口については、当初は小エリアとして「木曾」「岩村」「長篠」と3エリアに割っていたが、煩雑になるので1つにまとめた。武田・織田・徳川と接している為、ホットなエリアとなるだろう。
●東海/濃尾/伊勢エリア
簡単に割っているように思われるが、意外とここも悩みの多いエリアである。
美濃を東西で割っていたが、先の木曾口のエリア化に伴い、岐阜として1エリア化。志摩は伊勢へ吸収。割って入れた長島の規模にも悩んだが、単独で1エリアとし、尾張ほか、他の国も1エリア化で調整している。
【11月8日修正】
長島エリアが有している戦力ユニットを、本願寺ユニットから長槍ユニットへ変更。これへ本願寺が加担する事で強さを表現。
●近江/越前/若狭エリア
近江は戦ノ国で行っている南北に加え、延暦寺エリアを追加し、3エリアとしている。また越前と若狭は両方で2エリアとした。浅井氏と若狭武田氏は、朝倉影響下の勢力と位置づけている。そして延暦寺は、浅井へ助力する勢力とした。
【11/8修正】
各シナリオの開始年決定に伴って延暦寺勢力が登場しなくなり、この為、延暦寺エリアは比叡山エリアへ名称を変更。
近江・山城は、南近江、北近江、比叡山(山科まで含んだエリアと位置づけ)、京、の4エリア制へ。但しコンポーネントには、延暦寺ユニットも入れており、比叡山エリアでは時代によって、延暦寺ユニットと比叡山ユニットを切り替えて使う事が可能。
比叡山エリアの名称には随分悩んだものの、山科では延暦寺ユニットのすわりが悪く、比叡山という事で落ち着かせる事に。
●その他エリア
本願寺、雑賀衆、根来衆、三好などの関連付けを現在調整している。
【11/8修正】
紀伊エリアを雑賀へ変更。雑賀衆、根来衆を抹消。雑賀エリアユニットとしてまとめ、他のエリアとの統一制を保つ。また自作シナリオに備え、摂津、河内、堺和泉エリアと所属する戦力ユニットを追加。
信長勢力の取り扱い
エリア数が兵力に直結するシステムなので、ゲームに親しんでいる方なら、マップを眺めると兵力の想像がつく事だろう。そこからセットアップ図を想像して感じる思いは、信長弱すぎではないか、という感情ではないだろうか。
確かにこの状態からスタートする序盤の信長は、常に戦力が不足し、何もできない状態である。長島を攻めて大被害を出す事もあるだろう。だが、包囲網の何所か一角が崩れた時、次第に増大していくシステムとなっている。それは長島が早期に陥落したり、浅井が落ちる場面から始まる。そして朝倉まで制圧された時には、相当な戦力を展開できる様になる。
武田が信長との決戦を後に回し、周辺勢力の制圧を先に行った場合、その間も、信長の勢力は増大するだろう。少々の準備不足ではあっても、行き詰っている信長を一気にたたみ掛ける作戦が良いのか、お互い戦力を整え、天下分け目の大決戦を展開するのが良いのか、そうした信長と決戦するタイミングを計るゲームとしたい。
浅井・朝倉/延暦寺勢力の取り扱い
上記のマップエリアの項目中でも出しているが、浅井と若狭武田氏は朝倉の影響下の勢力としている。そして朝倉は武田の同盟者としている。だが、同盟者だからといって、プレイヤー側が好きに動かせるわけではなく、あまり使い勝手の良くない友軍という設定にしている。
また近江には延暦寺勢力を配置している。この勢力は浅井へ攻撃が行われると、浅井への応援に向かう勢力としている。プレイヤー側としては、浅井へ攻めた織田が、延暦寺の応援で疲弊する事は、ラッキーポイント的なありがたい存在であり、結果的に難易度が下がるのは分かっているのだが、どうしても入れたい勢力だってので、今回エリアを取った。
逆に、オリジナルシナリオとして織田方でプレイできる「信長包囲網」などを作った場合は、こうした勢力と戦う事となるので、これはこれでありだろうという思いからの設定でもある。
長島/伊賀勢力の取り扱い
長島は織田にとって、目の上のタンコブみたいな勢力である。史実の織田がそうであったように、何度も攻めて、大きな被害を出すだろう。この事は武田演じるプレイヤーにとって大変喜ばしいのだが、逆にここが陥落すると、織田の勢力は一気に拡大を始める事となる。
史実と照らし合わせて、織田単独の初期戦力では上記の浅井・朝倉、そして長島勢力を制圧するのは難しく、徳川と共闘できるなら、倒せる可能性があるというバランスにしている。
伊賀に関しては、延暦寺と浅井の関係と同じ様に、南近江の六角との関係を作れる様にしていたのだが、今回のシナリオでは六角家が滅びた後なので、取ってもうまみは何もないという存在になっている。また取るには、非常に苦労が必要であるので、費用対効果という現実的な観点では攻め込む必要性が全く無い。だが、オリジナルシナリオで活躍の場が作れる様に、六角ユニットを入れる事にした。
徳川/北条/上杉勢力の取り扱い
徳川は言うまでもなく、織田の同盟者であり、プレイヤー側の敵である。単独ではたいした敵ではなくとも、織田と共闘して長島や浅井らを落とすと後々厄介なので、主軸を何所に向かわせるにしても、無視できない存在としている。
北条については、同盟が復活した状態でのスタートとなる。史実では、ここで再び上杉への牽制役となるのであるが、そうした同盟者とするか、敵とするかはプレイヤーが判断して下さいという位置付けにした。
上杉は基本的に長年の敵である。ここでの決着を自らつけるべきか、北条に牽制させつつ織田との決戦を急ぐか、プレイヤーが判断できるようにした。上杉を飲み込んで、北陸道からの上洛もありなのだが、何分、上杉は徳川よりも遥かに強敵なので、これを本気で下すには時間が必要となる。
武田勢力の取り扱い
プレイヤーが担当する武田については、国力に対して、若干甘めの設定である事は否めない。これは単純に信濃エリアの割り方が、他の美濃や尾張、北陸道の諸国等と比べて甘いからである。分かっていてそうした。
この点については、次の「ユニット兵科の取り扱い」項目の説明と合わせて語りたい。こことの調整でバランスを取る事にした。
優秀な家臣団については、レートとしてはそれなりのものを与えているが、信玄の能力値(特に指揮値)が高い為、存命中は活躍の場が少ないだろう。だが勝頼の代になると、活躍というか、何か行動するにしても必要となる。ワンマン信玄と、陣代勝頼という組織をレートで表現した。
ユニット兵科の取り扱い
ユニット兵科は、騎馬、山岳、長槍、鉄砲、の4種が存在する。騎馬というと「えぇ戦国にそんなの無いよ」と思われる方が多いかと思われる。しかし信玄上洛では、便宜上、騎馬としている。
画像を見てもらうと分かるが、兵科によってレートの差は無い。ルールの差で差別化を図った。例えば、騎馬の生産・補充は厳しく、国もとでしか補充も行えない。山岳、鉄砲は防御側で優位に展開できるなど。また、騎馬と山岳ユニットを有している甲斐では、防御時に有利に展開できる山岳を国もとへ置き、他国へ侵攻していく時は騎馬を使う事が多くなる。そして侵攻時に発生した損害の補充は、国もとへ帰らなければならない。
こうして、合戦しては国もとへ変えらねばならない、武田家の雰囲気を出す事にした。また引き連れてくる騎馬も、信玄に率いられる事で無敵の武田騎馬軍団にも見えるのだ。ルール上、本当は使い勝手が悪いはずの騎馬ユニットも、騎馬というだけで強くも見え、実際、信玄に率いられる事で強くもなるのである。
大名・武将ユニットの取り扱い
大名と武将ユニットの表現は統一している。戦力を付加できる数値(左下)と、指揮できるユニット数(右の家紋)、そして補充・生産時の加算値(左上)である。
指揮可能なユニットの数分、戦力値を加算できる。指揮値の大きい信玄の場合、侵攻時に他のユニットをあまり必要としない。これは盤面に登場していない武将も考慮しての表現である。また盤面に登場する武将ユニットは、防御効果をも担っており、西上作戦時の真田や高坂のように、国もとへ残された武将の層の厚さも表現している。
そして代が変わり勝頼の時代になると、この指揮値がガクンと落ちる為、多くの兵で侵攻するには、多くの武将が必要になってくる。合戦に引き連れた武将は、その間、補充・生産活動ができないので、国力の回復に時間がかかるのだ。こうして、信玄と勝頼の差をレートとルールで再現している。