総統指令
Unternehmen BARBAROSSA
総統指令-Unternehmen BARBAROSSA-コラムページ
2015/07/17
Progress Note
従来、こまあぷではエキスパートモードを追加してきた。同じルールで、違った遊び方ができないかという思いで、ガザラの戦いで始めたのが最初だった。だが今回は更に異なり、追加シナリオを加える事にした。
青作戦という人気のない名称を用いる試み
追加のシナリオ名は「-Unternehmen BLAU-」、所謂ドイツ軍「青作戦」である。南方軍集団がA軍集団とB軍に分けられ、バクー油田とスターリングラードの攻略を目指した作戦である。途中、ソ連軍の「天王星(ウラヌス)作戦」が開始され、この後、局地的な反撃は行えたものの、ドイツ軍は次第に押されて敗北に向う作戦である。
よって縁起が悪いだとか、人気の無い名称を用いるメリットは全く無い、等の意見は当然ながら出ていた。それとあとひとつ、バクーまでがマップに納められていないという決定的な問題があった。だが、それを採用する事にした。
理由は明白で、青作戦の名称を用いる事で、ウクライナ~スターリングラードが戦場であると認識できるし、また前年のバルバロッサ~タイフーン作戦の失敗の後、仕切り直してからのスタートである事も認識できるからである。それがベテランゲーマーの性である。追加シナリオなので、ベテランユーザーにフォーカスして構わないだろうという思いもあった。
難易度は軽い?
実は難易度としては、バルバロッサスタートよりも難易度は軽いと思う。セットアップの段階ではあまり変わらない。バルバロッサからスタートしても、あの位置までは難なく進む事ができるだろう。よって、無駄な時間がなくなったとも考えられる。
では何故難易度が軽いのかというと、イベントを修正したのである。「グスタフ」ではサイの目が三倍になるし、時間軸+4で登場する武装親衛隊ユニットは最強戦力値を持つ。この分が楽になると思われる箇所である。
通常、こうした追加シナリオであれば、難易度は高くする事が多いが今回は低くした。社内では追加シナリオ構造を追加するなど、試験的な意味もっあったが、何よりユーザーへの還元として異なるプレイを体感していただきかったからである。時間との勝負となるバルバロッサより、若干、ゆったりと戦う事が可能であり、また、押されてしまっても、武装親衛隊の追加登場で、最後の悪あがきを楽しめる。そうした設定を提供したみた。
画材の一新
気付かれない方も多いと思うが、今回、画材も一新させた。特にテキスト関係はほぼ全部入れ替え、立ち絵の切り方も変更した。こまあぷチームも一年かかってやってきたか、更に前からのスタッフとの意見交換、技術交流も含め、一緒に手を入れる事にしたのである。特に文字にパンチを利かせるだけで、イメージが大きく変わる事に意識させての変更となった。
こうしたスタッフのスキルアップに繋がる事が、今後のこまあぷの向上にも繋がり、ユーザーの満足度も上がっていくのであれば、今後も積極的に行っていきたいと考えている。
2015/06/30
Developer Note
総統指令はSi-phon内で開発した為、試験的な試みを随所に取り入れてみた。また、これまでに構築してきたロジックやアルゴリズムの改良も行い、アプリとしての将来性を模索してみた。
サイフォンスピリッツを更に改良したコサックダンスAI
ガザラの戦いで構築したサイフォンスピリッツAIの特徴は、英軍で機動防御戦を展開するという点であった。機動防御戦とは、戦力で防御線を構築し、その後方予備として機動戦力を配置する陣形を取り、防御線で敵の打撃力を吸収して減衰させ、後方予備で打撃力を行使する戦術である。
だが、今回の総統指令では、ソ連軍の後退戦術と、そこから攻勢へ転じる縦深戦術を再現しなければならない為、AIを改良する事となった。後退戦術は防御線構築の流れで形成できる為、問題は縦深戦術への転換をどうするかとなる。更にドイツ軍AIでは、上手くファランクスを組めるかという問題が生じる。
ドイツ軍(ソ連軍AI)モード
プレイヤーがドイツ軍を担当する為、ソ連軍AIを実装する事になるが、現実にはドイツ軍プレイの割合がかなり多いだろうという事で、ソ連軍AIが重要な事はわかっていた。その為、AIの名もコサックダンスとしたのである。
厳密に計算させると、ソ連軍はほとんど動かず、モスクワ間近で侵攻していたドイツ軍を撃退し、戦線を構築ではなくなったドイツ軍を縫って、空いた都市を制圧していくのが強い動きとなる。これはヒストリカルベースでバランスを構築した為の仕様でもあった。
しかしながら、そうした動きのソ連軍相手と戦うのも面白さに欠ける。という事で、若干、弱くなるもののソ連軍には動きを与える事にした。結果として、ソロプレイと比べて、ドイツが勝利できる割合は増えているが、もっと強い方が良いのか判断できずにバランス調整は将来への持ち越しとした。
ソ連軍(ドイツ軍AI)モード
ファランクスというのは、敵に各個撃破され無い為の防衛戦術でもあるが、それを組みつつ攻撃をかけるという行動は、意外と難しい行動である。特にドイツ軍のユニット数はソ連軍より少なく、モスクワに近づくにつれ、戦線が広がっていくマップを採用した事から、戦線は薄くなっていくのだ。
ゲームを動かすには、攻撃を仕掛ける事が重要であるものの、攻撃の後、戦線が薄くなると各個撃破が生じて戦線が崩壊する。つまり、攻撃しないとつまらない、攻撃すると弱くなっていく、という現実に対してどう向き合うかがポイントとなる。
ヒストリカルバランスで組んだソロプレイモードが、10回戦って1~2回勝利できるかがドイツ軍の勝率であった。つまり、元からドイツの勝率は低いのである。だが、チートさせてまでコンピュータを強くしたいとも思わないので、史実並みに攻勢をしかけ、それで破綻しても、あと一回くらいは反撃できるくらいのAIであれば、納得していただける展開ではないのかという事にした。
2015/03/23
Designers Note
こまあぷ「総統指令-Unternehmen BARBAROSSA-」は、戦略級独ソ戦という事で、作戦級ゲームとの大きな違いは戦力の補充サイクルである。また時間軸の進みに対する変化を、どの様な形で与えるかという問題も生じる。作戦級であれば、時間軸の消化はタイムオーバーまでのカウントダウンであるが、戦略級であれば何らかの進化を与える事も重要となるからだ。
ゲームデザインの方向性
ゲームの方向性としては、ミニゲームではあるがシミュレーション寄りとした。ストラテジー寄りにして、ゲーム性を高める事も可能であったが、特にガザラの戦いをプレイしていただいたユーザーに対し、次の満足感を与えたい、という気持ちが大きかった事と、ここから入ったユーザーに対して、シミュレーションの面白さと歴史を楽しんでもらいたい、という気持ちが大きかったのが理由である。
でもそれはストラテジーでもいいのではないか、という考えも確かにあるが、今回は戦略級という事で、独ソ戦のシーソーゲーム感、両陣営の戦力差、そして主戦場となったエリアの意味を感じて頂きたく、シミュレーション路線とした。
戦力レート
両軍の戦力レートをどう置くかであるが、序盤はドイツ軍有利、中盤で拮抗、終盤はソ連軍有利というのが、一般的な独ソ戦のイメージではないだろうか。また複雑にするのはそう難しくないが、遊びやすさにフォーカスすると、あまり複雑にすべきではない。だが単純すぎても微妙な感情がわいてしまう。独ソ戦ゲームの難しさである。
いろいろ考えたが、今回は戦力となるユニットの総数は固定、レートを変化させる手法を選択した。ドイツ軍は5、ソ連軍は8ユニットの登場、初期の戦力レートは、ドイツ軍3、ソ連軍1、これに都市効果+1、制圧都市から離れるとその分‐1とした。これに時間軸の加算修正をかけ、ドイツ軍は時間軸+2ごとに、ソ連軍は時間軸+1ごとに1加算とした。
そして戦略級のキモとなる補充量は、イベントごとにドイツ軍+1の増加、ソ連軍は+3の増加とした。但し増加は排除されているユニットの復帰である為、当初定義した総数は超えないともした。
(戦力レートの変化一覧はこちら)
マッブの切り方
勝利条件は、ドイツ軍はモスクワ・レニングラード・スターリングラードの占領、ソ連軍はベルリン・ケーニヒスベルク・ワルシャワの占領とした。もちろん両軍とも敵ユニットを全滅させても勝利である。こうした勝利条件の下、マップを切る事となる。上下左右に7x7、わずか47へクスとしたが、独ソ戦を再現するにはどうするかが課題である。
許されない事は、ミニゲームだから独ソ戦にならなくて良い、という妥協である。四年に及ぶシーソーゲームにしろ、その主戦場となったエリアにしろ、それぞれに理由があるのだから、それらをデザインとして入れ込まないと、独ソ戦を演じる事はできない。
都市の配置については、ドイツの東方植民政策を反映させた形を取った。これだけが理由ではないだろうが、中世・ドイツ騎士団の時代より、植民活動を行ってきたエリアでは、ドイツ軍が容易に進軍でき、そうでないエリアへの進軍は上手くいかなかった事実を、結果論として押し込んだ形であるが、ドイツ人が移住していたエリアでは、ソ連邦への組み込まれ方に一定の反発があったのも事実である。特にバルト三国では、ネーデルランド軍集団(旧ドイツ北方軍集団)が孤立しながらも、ベルリン陥落まで抵抗を続けていた事実も反映させている。
悩んだのは「ハリコフ」の配置であった。当初「クルスク」とするか「ホロネジ」とするかで、1へクス程度のズレがあった。どちらも重要な都市であるが、2個の配置は望ましくないと判断した。結果「クルスク」の位置に「ハリコフ」と称する都市を配置する事で確定した。
連座制の戦闘システム
他に重要な要素は戦闘システム(計算式とCRTに相当)である。ソリティア版で考案していたシステムを改造し、選択した攻撃ユニットに隣接する敵ユニットと、選択した敵ユニットに隣接する見方ユニットが戦闘に参加させ、集団戦闘を表現する事にした。
また都市効果が大きい事から、都市に居座る部隊も多く、ハンドリングに失敗すると流動性を失う危険性があった。そこで、ステップロス効果を与え、後退すると被害なし、居座れば強制的に戦力値0とした。居座る事で都市の維持はできるが、戦力が0になる事で続けて攻撃されるとほぼ確実に全滅する。この選択肢をプレイヤーに与える形を取ったのである。
また終盤になるにつれ、両陣営とも戦闘値が上がっていく事から、より敵の撃滅が生じる形を取り、流動性を確保する事にした。結果、序盤はドイツ軍が侵攻するものの、中盤よりソ連軍が反撃でるシステムが作れ、その主戦場はスモレンスクからウクライナにかけてのエリアとなった。
イベントなどのルール
基本的にイベントが生じないと、勝負に勝てないものは望ましくないと考えている。だが、イベントが生じるとプレイヤーの感情が変化しないといけない、とも考えている。
イベントが起きるとソ連軍が最大3ユニット補充される事もあり、ドイツに有利なイベントを組んである。手番が二度実行、攻撃で+3、また敵が-2である。自軍+3も敵-2も結果は似ているが、イベント名と合わせて変化させた。序盤に登場するグデーリアン、常時登場するマンシュタイン、イベントがそれである。
これらに対するソ連軍イベントは地味であるが、理由は上記の通りだ。やはりイベントより補充される戦力が何より大きい。滅多に生じないパルチザンイベントは、ドイツ軍にとって痒いが痛くはないレベルとしたのも、泣きっ面に蜂イベントにはしたくなかったからである。
2015/03/21
Project Note
こまあぷ第四弾は「総統指令-Unternehmen BARBAROSSA-」である。今作品のゲームデザイナーは谷村勝一郎であり、サイフォン内で制作された。サイフォン初の独ソ戦ゲームでもあるが、実はアナログゲーム以外で、企画からゲームデザイン、仕様設計、開発、販売、という一環した流れを、完全に社内で行うのは、これが初めてのタイトルとなる。今回は、このプロジェクトの意義について語り、ゲームデザインの話は次回より展開したい。
独ソ戦の表現と今後のゲームエンジンとしての両軸開発
独ソ戦の表現も難しい。何故なら、この素材を愛するユーザーの目が肥えているからである。例えミニゲームだからといっても、それが独ソ戦の雰囲気を再現できていないと、ユーザーき見向きしないだろう。また、今後もタイトルを増やしていくという目標があるので、ゲームエンジンとしても、安定したものに仕上げないといけない。今回は、この両軸でのプロジェクトとなった。
独ソ戦の雰囲気とは
独ソ戦のイメージとは、どんなものだろう。夏にドイツ軍が攻勢、秋に頓挫、冬にソ連軍が反撃、春に停滞、およそこの様なシーソーゲームを繰り返している。そのシーソーの中心はドニエプル川周辺であろう。
では、当然そうしたシーソーゲームを作れば良いではないかとなる。しかしここで生じる問題が、デジタルユーザーのプレイ心理だ。通常、やられ役のコンピュータとの対戦になれたプレイヤーは、自らが不利化していく事を認めない。勝ち続け、成長を続ける事が、プレイのモチベーションとなる。
この理由から、不利になると「マッタ」を掛け、有利に展開できる為、手を戻す作業を繰り返す事が多い。そして勝ち続けるエンディングを望む。つまり、シーソーゲームは発生しない。ここがアナログプレイとの大きな違いとなる。
この問題には様々な対処方法がある。例えば、艦これでは空母は沈まない。戦闘で負けてもドックへ戻せるからだ。戦場に残り沈むのは、プレイヤーの意志で生じる仕組みを取った。これで戦闘の負けはあっても、成長要素を失わない安心感をユーザーへ与える心理作戦を取っている。
但しこれは、ゲームの基本がRPGだから許される仕組みである。SLGであれば、負け=戦力を失う、という条件は必須だろう。逆にその条件が生じた場合に、何を以って巻き返せるか、という事にフォーカスさせる方が正論であるべきだ。
デジタルゲームの開発としてはナンセンスであるが、今回はシーソーゲームを選択した。そもそも「こまあぷ」は、アナログりユーザーにデジタルの手軽さを知ってもらい、デジタルのユーザーにアナログの楽しさを知ってもらう、それがコンセプトであるので迷う余地はなかった。
安定したゲームエンジンとして
ゲームを開発していく上で、エンジンの安定化は重要である。安定しないエンジンでは、ゲームの調整や表現方法の向上など望めないからだ。そして量産もできない。
もともとシミュレーションエンジンは、量産化が行いにくいエンジンである。量産化できる凡庸システムでは、モチーフの再現性が悪く、プレイヤーに受けにくいからである。そこでモチーフに合わせていくと、量産化が難しくなるという問題が生じる。
この問題は、サイフォンでもずっと生じてきた。日本史を流れて遊べるエンジン作りでスタートした「戦ノ国」も、結局は戦国しか表現できないとなり、「源平争乱」ではかなりの改修となった。「太平記」も企画されたが中断している。
ゲームを開発していく上で、その方向性は重要である。特にデザイナーとディレクター、そしてプログラマの意志疎通が弱いと、背骨が曲がっていくからだ。そこで今回は、全ての作業を社内で行う方法を取った。
まずゲームデザインする上で、バランスや表現方法の調整作業は必須である。この調整作業が難しい作り方をすると、結局は妥協の産物となるからだ。この調整に重要なのは4つの要素である。それはレート、計算式、ルール、勝利条件の4つである。
素早く組める事で、調整時間を得る事で、エフェクト等の表現量を増す。それがユーザー満足度と会社満足度をあげる条件である。その為のエンジン作りである以上、社内で開発し、小刻みに修正指示が出せる体制を取る事にしたのである。